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第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章:地誌

第7節:七郷村郷土研究(抄)

第二編 郷土研究

第五章 七郷村の觀察

第十二節 七郷村の風俗習慣

觀察要項

1 郷土に於ける冠婚葬祭等に於ける儀式慣例を直觀せしむこと

A 帯直し
 男女七才に至れば親戚隣家友人を招待して礼服着用にて上座に座し赤飯酒肴を用いて祝ひ食後鎮守に参詣して將来の幸福を祈る。
 七十七才及八十八才に至る時亦之れと同じ祝をなす。
B 結婚式
 一般に之を「御祝儀」と稱し先づ媒妁人其の隣家に通し之れを招待し婚約成立云々を告げ隣 家の人を証人に當つ。結婚式日は媒妁人嫁する者の家庭に行き嫁者と共に叔伯父兄弟を連れ来る。夫の家に入る時新婦は松明にて歓迎され杵を跨ぐ。其の時笠を 頭上に頂く、同時に親子の盃を取かはす。然して上座に着座し其の左右に媒妁夫婦尚順次親族の者座し祝宴をあぐ。之れ俗に一見と称す。一見の帰るや後隣家組 合新婦を上座に左右に媒妁婦及び隣家の比較的新婦なるもの侍女房とて列席し、以下男子列席し先づ初め冷酒を進む(此の式の給仕は少年男女なりとす)。新夫 は相對して着席し此處に三々九度の盃を擧ぐ謠曲高砂、四海波、永き命、庭の真砂、千秋楽を合唱す。以て式を終り翌日宮詣でを行ふ。夫れより組合各戸知己に 披露とて老母案内の下に行ふ。(入夫の時之れに準ず)
C 葬式
 葬式は昔より其の人の家に行ふを通例とす。葬日には信ずる宗派檀下になりし住寺和尚に通じ之れを依頼し親族も通じ入棺し會葬者は礼服着用婦人は白無垢にて和尚讀の経ありて、棺を近親の者肩に負ひて穴廻りとて左より三回す。之れ普通の葬式にて古くよりの慣例である。
D 祭
 祭は新年に歳神を祭り春秋二季に鎮守祭ある。二月初午に稲荷神社、三月に雛祭、四月に釋迦、五月に端午の節句、六月に祇園祭のある。七月七夕に星祭、十三四五六日には先祖祭、八月には月祭りがある。十月に福神祭、其他節々に祭る習しである。

2 休日制度及び勞働上の習慣

 本村にてはこの休日が今一定されんとしつつある時にて、これが一定せる習はしに至れるものを記するに至らない。中には旧き習慣を打ち捨つるにしのびず、陰に之れをなすあり、又或者は全然村長の指するままに行ふもある。
 形式だけは略し一定するやうになって来た。將来一様になることと信じてゐる。過ぐる年一定の休日を定めたのがあるが之れも完全といふに足らぬから茲に記すのを畧すことにする。

3 方言訛語*1

 父 オトッツァン
 母 オッカサン、オッカヤン、カアチャン、オッカー
 祖父 オヂイヤン、オヂイ、オヂイサン
 祖母 オバアヤン、オバアサン、オバア
 叔父 オヂヤン、オッツァン
 叔母 オバヤン、オバサン
 兄 アンヤン、ニイサン、セナ、セナゴ
 姉 ネイヤン、アンネー、アネゴ
 弟 シャテイ
 吾家 オラアチ、オラガチ
 君の家 オメヤーチ
 己(おの)れ オレ
 君 ヤツ
 斜 オサンカ、サガッチョ
 不形物 エビツ、ショッコウ
 平座(ひらざ) アグロ
 戸口 トボオグチ、クグリ
 燕 ツバクロ
 螢 ホータル ホータロ    等

*1:訛語(かご)…なまり言葉。

4 使諺(しげん)

 犬も歩けば棒に會ふ(いろはかるた)。
 ろんより証據。
 はなよりだんご。
 大釜の底。
 水は方円の器に習ふ。
 朱に交れば赤くなる。
 瓜のつるに茄子はならぬ。
 いつけ蚯蚓(みみず)で三才なまづをつる。
 えびで鯉(こい。ママ)をつる。
 叶はぬ時の神頼み。
 いそがば廻れ。
 三年尋ねて人を凝れ。
 たんきはそんきのもと。
 権平種蒔き烏(からす)がほぢる。
 玉に傷。
 和尚が憎けりゃけさまで憎い。
 隣の物には味がある。
 見るは道楽聞くは宝楽。
 身から出た錆。 等

5 童話俗謡

イ 桃太郎、浦島太郎、かちかち山、花咲爺。さるかに合戦、こぶとり、亀と兎、鶴と狐  など

ロ 法海節、サノサ節、喇叭節、都都逸、おひはけ、じんく、ハイカラ節、サツト節、マガイー節、どんどん節、大正節、なら丸くづし節

 俗謡は小學校及び補習学校等にて唱歌をなすために其の聲をきく。甚だまれであるが、然し都会地から次第に傳播して流行の上品ならぬ俗歌の侵入するは誠に遺憾の事である。出来侍るならば唱歌を以て俗謡たらしめたいのである。間々機織の娘及び小守の少女が下品な俗歌を捨て唱歌をすさむあるはよろこばしい。

七郷尋常高等小学校(板倉禎吉編)『郷土研究』(嵐山町立七郷小学校蔵)
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