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第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章:地誌

第7節:七郷村郷土研究(抄)

第二編 郷土研究

第一章 郷土の陸界

第五節 陸界觀察上の注意

 元来一つの觀念が出来るには単に其の物のみを觀察させるのみで出来るものではない。山の觀念を與へるために山さへ見さすればそれでよいと云ふ様に稍もすると間違って考へられて居ることが有るかと思ふ。山の観念は決して山許りでは出来るものでなく、他の山でない現象と比較對照し、その中から山特有の性質を抜き出して而して後に山の觀念を得るのである。これは単に地表地形のみに関した事ではありません。一切の直觀教授の総てがさうであります。
 次に児童に直觀せしむるに、初めて觀するものとして取扱ふてはならぬ。児童は長い間(七、八年間も)充分直觀して充分知り切っては居るものの、其の見方に於て兎角偏して居り不充分である。従って朦朧(もうろう)たる觀念に過ぎないから新着眼点から系統を立ててやらねばならぬ。
 地表を觀察させるに先づ幾つかの區別をつくり標準を定めてやらねばならぬ。先づ第一に水邊か海岸に注意させて地表面を比較させ、次に陸と島との區別、半島や地峡、海峡や海岸の種々の形、岬や湾などの區別をさせる。そして地面の形に及んで觀察させる。これには三反田沼(吉田)以て類推さするが最も適當なのである。次に表面の凹凸を見させ、平地と山地とを区別させ。次に海原よりの高さにより平地を高原と低原とに、山地を山岳と渓谷等とに區別させる事が出来る。
 次に人生に特に影響を與へる事を觀察させる。
 地形に関する直觀指導及び直觀整理に附帯して是非共缺くべからざる事は地図の見方、描き方であります。地図には多くの特殊の託號が充たされてあって、それが各々深重なる意味を以て特殊の事柄を表して居る。だから之れを児童に氣長に呑み込ませねばならぬ。
 地図の描寫は非常な時間を要するものであるけれども児童にはそれ相應のものを書かせて次第に粗から密にして大成を期さねばならぬ。

七郷尋常高等小学校(板倉禎吉編)『郷土研究』(嵐山町立七郷小学校蔵)
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