第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章：地誌
武蔵国比企郡村誌 巻之七
○杉山村*1
本村古時郷庄領不詳
疆域*2
東は広野太郎丸の二村と加須川及ひ小逕*3を割り、西は中爪村南は志賀村と市の川を隔てて相対し、北は越畑村と林巒*4或は畦畔*5を界とす
幅員*6
東西二十七町五十間 南北八町五十間
*1：杉山村(すぎやまむら)…現・埼玉県比企郡嵐山町大字杉山。
*2：疆域(きょういき)…境界内の土地。
*3：小逕(しょうけい)…小みち。
*4：林巒(りんらん)…ぐるぐるめぐっている山つづき。
*5：畦畔(けいはん)…あぜ。
*6：幅員(ふくいん)…ひろさ。はば。管轄沿革
天正中(1573-1591)徳川氏の有となり、旗下士*1森川金右衛門の采地*2となり、田に高百九十四石一斗森川庄九郎知行とのす世襲す。明治元年(1868)戊辰(つちのえたつ)武蔵知県事の管轄となり、二年(1869)己巳(つちのとみ)品川県に隷し尋(つい)て韮山県に転し、四年(1871)辛未(かのとひつじ)入間県に属し、六年(1873)癸酉(みずのととり)熊谷県の所轄となる
里程*3
熊谷県庁より西南三里十二町三十三間
四隣広野村へ九町中爪村へ二十一町五間
志賀村へ十三町八間二尺越畑村へ二十一町
近傍*4宿町松山町へ二里二十町 字雁城を元標とす*1：旗下士(きかし)…将軍直属の武士。
*2：采地(さいち)…知行所。
*3：里程(りてい)…道のり。
*4：近傍(きんぼう)…近辺。地勢*1
東北は林丘連亘*2雑樹繁茂し西南に市の川を帯(お)ふ運輸便を得す。薪炭*3贏余*4
地味*5
色赤黒質悪稲梁*6適せす麦桑*7に応す。水利不便、時々旱*8に苦しむ。
*1：地勢(ちせい)…土地のありさま。
*2：連亘(れんこう)…つらなりわたること。
*3：薪炭(しんたん)…たきぎとすみ。
*4：贏余(えいよ)…あまり。
*5：地味(ちみ)…地質の良し悪し。
*6：稲梁(とうりょう)…稲と粟(あわ)。
*7：麦桑(ばくそう)…むぎとくわ。
*8：旱(かん)…ひでり。税地
田 十五町九反八畝歩
畑 二十三町七反二十三歩
宅地 七反二十四歩
山林 十町六反六畝十八歩
総計 五十町八反四畝五歩飛地*1
村の南方志賀村の内畑 一反五畝二十三歩
*1：飛地(とびち)…同じ行政区に属するが、他に飛び離れて存在する土地。
字地
雁城(かりじょう) 村の中央にあり東西三町二十間南北一町四十五間
打越(おっこし) 村の北方にあり東西三町五十間南北一町四十間
杢の入(もくのいり) 打越の南に連なる東西二町十間南北三町二十間
岩花(いわはな) 杢の入の南に連る東西一町三十五間南北三町二十五間
関口(せきぐち) 村の西隅にあり東西一町四十八間南北四町二十五間
笠稲(かさいな) 関口の東に連る東西三町五十五間南北一町四十間
川袋(かわぶくろ) 村の東隅にあり東西二町南北二町十間貢租*1
地租 米四十四石七斗、金二十五円
賦金*2 金八円
総計 米四十四石七斗、金三十三円戸数
本籍 五十二戸 平民
社 一戸 村社
寺 四戸 天台宗一宇、堂二宇、庵一宇
総計 五十七戸人口
男 百七十三口
女 百四十七口
総計 三百二十口
他出寄留*3男三人女四人*1：貢租(こうそ)…田地に課せられた租税。
*2：賦金(ふきん)…税として割り当てられた金銭。
*3：村から出ている寄留者。寄留(きりゅう)は、他郷または他家に一時的に身を寄せて住むこと。牛馬
牡馬三十頭
山川
市の川 深処四尺浅処一尺広処六間狹処四間 緩流澄清堤防あり。村の西方越畑より来り東方太郎丸村に入る。其間一里二十三町
万歳橋 熊谷道に属す、村の東方市の川の下流に架(か)す。長三間巾五尺木製
加須川用水 深処四尺浅処二尺巾三間 村の北方越畑村より来り東南隅に至り市の川に入る。其間十四町二十間田二町九反八畝歩の用水に供す。
万代橋 熊谷道に属す、村の東方加須川用水の下流に架す。長二間巾八尺土造。道路
熊谷道 村の西方中爪村界より東方広野村界に至る。長九町五十八間三尺巾九尺道敷*1二間
掲示場 村の中央にあり堤塘*2
囲堤 市の川に沿ひ西方越畑村界より東方太郎丸界に至る。長二十町馬踏*3一間堤敷*4三間。修繕費用大破は官に小破は民に属す。
*1：道敷(みちしき)…道路に使用する敷地。
*2：堤塘(ていとう)…つつみ。
*3：馬踏(ばふみ)…堤防の頂上。
*4：堤敷(つつみしき)…堤防の占める土地。神社
八宮神社 村社々地東西五間三尺南北四十二間面積百十四坪 村の中央にあり素盞鳴尊を祭る祭日十月十五日
仏寺
積善寺(しゃくぜんじ) 東西二十間南北十三間面積二百八十七坪天台宗男衾郡赤浜村普光寺の末派なり。開基創建不詳
薬師堂 東西十七間南北十八間面積二百七十三坪 村の東方にあり
観音堂 東西五間三尺南北四間面積二十四坪 村の東南にあり
蔵身庵(ぞうしんあん) 東西一町南北一町十間面積二千五百十坪曹洞宗大谷村宗悟寺の末派なり村の西方にあり。寛文年中(1661-1672)創建すと云。後衰微せしを以て天明二年(1782)僧梅光中興す学校
公立小学校 東西十九間南北十二間村の中央にあり。生徒男四十九人 女十三人
役場
事務所 村の中央戸長宅舎を仮用す
古跡
城墟 村の中央にあり。東西三町四十間南北四町二十間遺濠今尚存す古昔*1比企十郎重成之に居ると云。風土記に往昔*2金子家忠の居住なりしといへど詳ならず。又伝へに中古上田氏の臣庄主水と云もの住せし所とも云へり云々とあり。何れか是*3なるを知らず
*1：古昔(こせき)…いにしえ。
*2：往昔(おうせき)…過ぎ去ったむかし。
*3：是(ぜ)…正しいこと。物産
繭 三十五石
大麦 四十八石
小麦 十六石
大豆 二十石
小豆 二石
桑 三百駄
楮*1 五百貫目
生絹*2 百五十疋
白木綿 二百五十反
薪 六百駄*1：楮(こうぞ)…樹皮を和紙の原料とする。
*2：生絹(すずし)…精練されていない絹織物。民業
男女農桑採薪を業とす
『武蔵国郡村誌 第六巻』「武蔵国比企郡村誌 巻之七」 埼玉県立図書館, 1954年(昭和29)7月31日