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第6巻【近世・近代・現代編】- 第9章:戦争

第2節:戦争の記録

比企郡七郷村青年団『青年団報』第2号 (1939)

七郷便り

戦線ニ御活躍ノ勇士並二後方勤務ニ砕励ノ将兵各位ガ最モ慰安トモナリ又知ラント欲スルコトハ郷土ノ状況デアルト思フ。然シナガラ甚ダ自分勝手ナ言分ニ相違ナイガ【5字墨塗】村出身者個人個人ニ手紙ヲ書クコトハ容易デナイ為メニ、思ヒナガラモ御無沙汰ニナルノデアリマス。然ル所青年団ガ団報ヲ発刊シテ故郷ノ現状ヲ具サニ報セントセル企図ハ誠ニ喜ブベキコトデ吾人ノ衷心ヨリ感謝スル所デアリマス。第一回ノ発行ニ際シテ生憎筆ヲ執ルコトノ出来ナカツタコトヲ遺憾ニ存ジマシタガ、今回ハ紙上ヲ拝借致シ一言所信ヲ述ブルト共ニ、銃後ノ現況ヲ御伝ヘスルコトニ致シマス。
欧州ノ事態ハ愈々軌道ニ乗ツタヤウデアル、大ニヤッテ貰ヒタイ。少クモ支那事変ノ解決ノ付クマデハ、望ムラクハ興亜建設ノ聖業完成マデモト思フノデアリマスガ、欧州列国否世界ノ国際情勢ハ極メテ複雑微妙ニシテ、昨日ノ敵ハ今日ノ味方ト言フヤウナ変転滑脱無キヲ誰ガ保証シ得ルモノゾ? ヒトラー独総統ノ脳裡ニ将亦スターリンソ聯書記長ノ胸底ニ如何ナル秘謀ヲ蔵スルカ、チェンバレン英首相ヤ、ルウーズベルト米大統領ガ如何ナル老獪手段ヲ採ルカ判ッタモノデハナイ。サハアレ我ニハ自主独立ノ不動国策アリ。前線モ銃後モ、上下貧富ノ区別ナク老幼男女ヲ問ハズ真ニ同心一体トナッテ大和民族ニ與ヘラレタル大使命ノ遂行ニ邁進スレバヨイノデアル。現代戦争ガ国家総力戦タルコトハ申スマデモナイノデアルガ、武力ニ次ギ最モ重要ナルハ経済力デアル。殊ニ食糧問題ハ其中枢ヲ為スモノデ事変下ニ於ケル農村ノ任務又重大ナリト言フベキデアル。カルガ故ニ吾等農民ハ生産増殖計画樹立遂行ニ万全ヲ期シテ居ルノデアリマス。幸ニ本年ハ天恵モ伴ヒ米ハ近年稀ナル増収デアルコトハ啻(ただ)ニ農家ノ為メノミナラズ、国家ノ為メ同慶ニ堪エナイノデアリマス。次ニ戦時財政ノ基礎ヲ確固ナラシムルニハ、輸出貿易増加ニ依ル外貨獲得ト輸入物資ノ消費節約及国民貯蓄ノ励行ヲ必要トスルノデアリマス。吾ガ農村ニ於ケル繭増産計画モ大ニ其効ヲ奏シ、外貨獲得ニ寄與セルコトハ勤労報国ノ発露ニシテ欣快トスル所デアリマス。物資節減ト貯金報国デアリマスガ、生産物価昂騰ニ依ル貯蓄ト生活改善ニヨル貯蓄計画遂行ニ当ツテ居ルノデアリマス。即チ繭ハ春初秋蚕トモ一貫目一円、晩秋蚕ハ二円、米ハ一俵一円二十銭、小麦ハ一円五十銭、大麦ハ一円、其他販売物ニ一定ノ貯蓄額ヲ定メ又生活改善ニ依ル貯蓄モ本年度ニ於テ一戸平均十円ヲ目標トシテ実施ニ努力シテ居ルノデアリマス。尚軍需供出ニ就テハ大麦、甘薯ヲ始メ干草、梅干、兎皮ニ至ルマデ利害ヲ超越シテ常ニ割当以上ノ成績ヲ以テ赤誠ヲ捧ゲツツアルノ状態デアリマス。出征将兵遺家族ノ業ニ対シテハ勤労奉仕班ノ活動ト青年団、分会、小学校等ノ側面援助ニ従リ是亦萬遺憾ナキヲ期シテ居ルノデアリマス。本月三日ヨリ一週間軍人援護強化週間ヲ実施シ、第一日ニ於テは午前四時半サイレン合図ニ各部落毎ニ神社ニ参集、出征将兵ノ武運長久祈願ヲ挙行時局認識軍人援護強化ヲ力説シ、第二日ハ寺院主催ノ出征将兵健康祈願ニ戦没者慰霊法会ヲ挙行、第三日以後ハ役場、学校、分会、青年団、愛国、国防婦人会等戦没者ノ墓参ヲ行ヒ又学校児童ニ慰問文ノ作製発送ヲ為サシメ、最終日ニハ午前中愛国、国防婦人会ノ合同総会ヲ開催、午後ハ遺家族慰安会ヲ開キ、藤原夢声ノ軍国美談ヲ中心トシ桃中軒千代外ノ浪曲、漫才、百面相、舞踊等ノ余興ニ一同腹ヲ抱ヘ且ツハ心ヲ引締メ以テ銃後ノ護リニ一段ノ励ミヲ加ヘタノデアリマス。尚当日ハ名誉アル戦病死者ノ御尊影並ニ遺留品陳列室ヲ設ケ偉勲ヲ偲ブト共ニ、英霊ニ対スル崇敬ノ念ヲ新タニシ又二十一日夜青年団主催時局映画会ヲ開キ、遺家族ヲ招待、慰安ニ努メマシタ。まあコンナ具合デ銃後ハがっちりシテ居リ、十年ヤ二十年ノ長期モ何ノソノト言フ意気込デスカラ、ドウカ安心シテ皇国ノ為御奮闘ヲ切ニ御願ヒ致シマス。
今日(十月二十四日)カラ三十日迄本年第二回ノ防空訓練ガ始マリマシタ。然カモ今回ハ全国一斉ニ行ナハレマス。国土防衛ノ重要任務デアリマスカラ実戦其モノノ気持デ真剣ニヤリマス。
我等ハ常ニ思フ。帝国ハ開闢以来未ダ一度モ外敵ノ国土侵入ヲ受ケタコトノナイ御稜威(みいつ)高キ国柄デアル。コノ尊キ誇リヲ傷ケザルヤウ、国ヲ挙ゲテ努ムルコトガ皇国ニ生ヲ享クルモノノ責務デアルト信ズルノデアリマス。
農村ハ愈々麦ノ蒔入カラ稲ノ刈取リ、脱穀、調製等戦闘ガ開始されます。然シ戦果ハ確実ニ偉大デアリマス。ソレニ応召兵モ続々帰還サレタノデ、人的資源モ心配無ク総テノ角度ヨリ長期戦ノ準備ヲ整ヘマシタ。前線ハ頼ム、銃後ハ保証スル。
     事務室ノ片隅ニテ   栗原侃一

比企郡七郷村青年団『青年団報』第2号 1939年(昭和14)12月

掲載にあたり句読点を付け加えた。

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