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第6巻【近世・近代・現代編】- 第9章:戦争

第2節:戦争の記録

七郷村軍友会の設立

帝国在郷軍人会

 1910年(明治43)11月3日に、帝国在郷軍人会が陸軍省の指導の下に創立された。この会は、現役として服役していない軍人の団体としてつくられたもので、その目的の一つは、現役以外の軍人を組織化して戦時の動員に備えること、さらに軍事知識の普及や国家観念の養成にあたらせることにあった。明治政府は、1873年(明治6)1月に国民皆兵をめざす徴兵制度を太政官布告で定めたが、当時は徴兵令反対一揆(血税一揆とも言われた)が各地で起っていた。その後の日清戦争・日露戦争の経験をもとつくられた帝国在郷軍人会は、軍事知識や国防意識を社会に広める重要な役割を持っていたのである。

七郷村軍友会の結成

 この帝国在郷軍人会という全国組織は突然誕生したのではなく、日露戦争前後から各地で在郷軍人の団体がつくられ始めていた。七郷村では1903年(明治36)10月に七郷村軍友会が設立された。つくられた経緯は資料がなくて分からないが「七郷村軍友会規則」だけが残されている。当時日本は、日清戦争に勝利し、さらに大国ロシアとの対立を深めていた。やがて起る日露戦争の前年に七郷村軍友会がつくられたのである。
 規則の前文には、「万世一系」の皇室を奉じ、国は富み兵は強いが、今戦争(日清戦争)の勝利の機運にひたっている。油断してはいられない。益々武威を発揚し国権の伸張をはかることは、国家の急務、国民の大義であり、我々軍籍にある者は片時も怠ってはならない最大の要務である。ここに一団をつくり、七郷軍友会と名づけた。「軍人ノ価値品位ヲ増進スル事ヲ力(つと)メ帝国軍人タルノ本分ニ背カザラン事ヲ期シ以テ他日ノ大動機ニ応セントス」と述べている。
 そこには日清戦争に勝っても油断することなくロシアとの戦争に備えようという心構えがのべられている。「軍人ノ価値品位ヲ増進スル事ヲ力メ帝国軍人タルノ本分ニ背カザラン事」という言葉の裏には、一般的に日清戦争で戦争体験をして帰還した兵士の品位保持が課題になっていたという現実もあった。
 会則は長文のものであるが、貴重なものなので資料として全文を収録した。
 ここではいくつかの条文にふれておきたい。
 会則の第2条では「在郷軍人ノ品位ヲ保チ相互ニ友情ヲ温メ協同一致軍事思想ノ発達ヲ図ルヲ以テ目的トス」と会の目的を述べている。
 第3条はその目的を達するための活動内容を述べている。
1 勅諭の聖旨を遵守。
2 現役中に教育された軍事志操の保持と軍人精神の発達。
3 一般法律と陸軍の法令厳守。
4 郷党を導き尚武の気性を養う。
5 補充兵を導き、一般壮年子弟の模範となる。
6 品位を修め家の務めに精励する。
7 業務の余暇に互いに軍事上の新古のことを研究し教材の復習。
8 戦時や事変の際は勿論勤務演習簡閲点呼(かんえつてんこ)【軍が予備役の下士官や補充兵を集め点検すること】等の命令のあるときは速に召集に応ずる準備を整えておく。
9 地方の軍事教育の発達をはかり、兵役応召者の入営を奨励すること。
10 新な入営者に普通学復習させること。
 この第2条、第3条に軍人会のめざすことが集約されている。このような各地に成立してきた在郷軍人会は、やがて陸軍省の指導する帝国在郷軍人会に統合されていった。
 帝国在郷軍人会は陸軍だけの組織であったが、1914年(大正3)に海軍をもふくめて軍部の外郭団体と位置づけられた。社会運動の発展に対抗して国民の思想統制の役割も演じた。やがて戦争時代に入ると戦時体制に国民を統合し動員する役割を担っていった。敗戦に伴い1945年(昭和20)8月31日に解体された。

資料 七郷村軍友会規則          明治36年10月設立
                     七郷村軍友会
  七郷村軍友会設立趣意書
我大日本帝国ハ厳然トシテ東洋ノ表ニ吃立(きつりつ)シ建国以来茲(ここ)ニ弐千五百有余年上ニ万世一系ノ尊栄ナル皇室ヲ奉戴シ皇威赫々(かっかく)トシテ国常ニ富ミ兵常ニ強ク四夷(しい)【外国人をさげすんで使う言葉】モ尚ホ萎蹙(いしゅく)シテ敢テ我尊厳ヲ犯スナシ是レ元ヨリ聖徳ノ然ラシムル所ナリト雖(いえど)モ畢竟(ひっきょう)民ニ報公ノ念熾(さかん)ニシテ忠勇義烈一片ノ大和魂ノ存スルアリテ此カ心骨タルニ職由(しょくゆう)【専らそれに基づくこと】セスンバアラサルナリ
今ヤ我帝国ハ戦捷(せんしょう)【戦争に勝つこと】ノ大機運ニ乗シ四海ヲ■■(いよう)【光り輝く】シテ威風千載(せんざい)【長い年月】ニ赫灼(かくしゃく)【光り輝く】タリト雖(いえど)モ翻(ひるがえっ)テ宇内ノ形勢ヲ鑑(かんがみ)ルニ邦家ノ前提ハ猶ホ遼遠ナリ苟モ高枕安臥(たかまくらあんが)従(ほしいまま)ニ泰平ノ夢ヲ貪リ敢テ自ヲ奮起セスシテ鴻図(こうと)【広い領土】ノ大成何レノ日ニカ遂ル事ヲ得ンヤ国民ニシテ果シテ斯ノ如クンバ何ヲ以テ宇内ノ列強ト雄ヲ争フ事ヲ得ン然リ今ノ時ニ於テ益々武威ヲ発揚シ国権ノ伸張ヲ図ルハ是レ是レ国家ノ急務国民ノ大義ニシテ苟モ身軍籍(ぐんせき)ニ列スルモノハ須臾(しゅゆ)【しばしの間】モ怠ル可ラサル最大至要ノ要務ナリトス
軍人ハ国家ノ干城(かんじょう)【楯と城の意味】ナリ畏クモ上ニ大元帥陛下ヲ仰キ陛下ノ股肱(ここう)【手足】トナリテ国家ヲ藩屏(はんぺい)【垣根】シ国民ヲ保護スルノ栄職ニ位スルモノ其志操高遠気節稜々タルニ非レバ以テ能ク品位声望ヲ維持シ優ニ大日本帝国軍人タルノ真価アリト謂フ事ヲ得可ラス況(いわ)ンヤ国家保護ノ大任ヲ尽ス事豈(あに)得テ望ム可ンヤ軍人タル者其念ス可キナリ矣
今ヤ将(まさ)ニ帝国ノ軍備拡張セラレ各地軍人各種ノ団体ヲ設鍛錬(たんれん)訓育以って本分ニ違ハサラン事ヲ期シ後進ノ誘導ニ率先尽力シ以テ盛ニ強兵ノ策ヲ講スルニ至ル豈悦フベキノ事ナラズヤ此時ニ当リ我儕(わがともがら)【わが仲間】職ヲ軍籍ニ奉スルモノ赤々当(ま)サニ地方ニ率先シテ宜シク軍事思想ノ導火トナリ善良ナル国民トシテ富国強兵ノ基ヲ開クハ将ニ然ルベキ処ナリトス
我儕感アリ茲(ここ)ニ一団ヲ設ケテ七郷軍友会ト名ケ嘗(かつ)テ受ケタル志操ヲ涵養(かんよう)シ相扶液(あいふえき)【助け合い】シ相提携シテ軍人ノ価値品位ヲ増進スル事ヲ力(つと)メ帝国軍人タルノ本分ニ背(そむ)カザラン事ヲ期シ以テ他日ノ大動機ニ応セントス我儕ノ志望豈徒爾(とじ)【むだ】ナリトセンヤ

  七郷村軍友会々則
第1章 総則
第1条 本会ハ七郷村在郷軍人ヲ以テ組織シ七郷村軍友会ト称ス
第2条 本会ハ在郷軍人ノ品位ヲ保チ相互ニ友情ヲ温メ協同一致軍事思想ノ発達ヲ図ルヲ以テ目的トス
第3条 本会ノ目的ヲ達スル為メ左ノ事項ヲ監ク躬行(きゅうこう)【自ら行なう】スベシ
1 勅諭ノ聖旨ヲ奉戴シ読法ノ主旨ヲ遵守スル
2 現役中教育セラレタル軍事志操【堅い志】ヲ保持シ特ニ軍人精神ノ発達ヲ図ル事
3 一般法律ハ勿論陸軍ノ法令ヲ厳守スル事
4 郷党ヲ誘導シ尚武ノ気象【性】ヲ養成振起スル事
5 補充兵ノ教導トナリ一般壮年子弟ノ儀表(ぎひょう)【模範】トナル事
6 厳ニ品行ヲ修メ家務ヲ精励シ■■ノ愛敬ヲ得ン事ヲ心掛ル事
7 業務ノ余暇ヲ以テ互ニ軍事上新古ノ研究ト簡単ナル教科ノ復習ヲナシ同心一致他日ノ報効(ほうこう)【国のために尽くすこと】ヲ期ス事
8 戦時若シクハ事変ノ際ハ勿論勤務演習簡閲点呼(かんえつてんこ)【軍が予備役の下士官や補充兵を集め点検すること】等令アルトキハ速ニ召集ニ応スル準備ヲ常ニ整ヘ置ク事
9 地方軍事教育ノ発達ヲ図リ且兵役応召者ノ入営ヲ奨励スル事
10 新ニ入営スルモノニ普通学ヲ温習(おんしゅう)【繰り返し復習】セシムル事
第2章 会員及会友
第4条 本村在郷ノ帰休兵豫後備役【予備役・後備役】軍人及第一第二補充兵役ニ服役中にアルモノハ総テ本会々員タルノ義務ヲ有スルモノトス
第5条 本村在郷軍人ニシテ第一国民兵役ニ服スル者ヲ特別会員トス
第6条 軍人以外ノ士ニシテ左ノ諸項ニ該スル者ハ本会ノ決議ニ依リ名誉会員ニ推挙スル者トス
  但シ会員証書ハ別ニ定ムル所に依ル
1 軍事上ニ関シ功蹟【績】アル者及熱心尽力スル者
2 特ニ本会ニ対シテ裨益(ひえき)【役に立つ】ノ行動アル者
3 本会ノ趣旨ヲ翼賛シ特ニ金品ヲ寄贈スル者
第7条 名誉会員ハ総会ニ参列シ会員ト同一ノ権能ヲ有スルモノトス
第8条 会員ハ本会々費トシテ毎月金5銭ヲ納付スルモノトス
第9条 会員ハ他ヘ転籍寄留若シクハ其他正当ノ事由ナクシテ退会スル事ヲ得ス
 但 不得止事故アル者ハ其理由ヲ会長ニ届出テ承認ヲ受ケ可シ
第10条 会員ニシテ会則ニ違背シ軍人タルノ本分ヲ失墜シ会員タルノ対面ノ毀損(きそん)スル等ノ所為アル者ハ本会ノ決議ニ拠リ除名ス
特別会員ニシテ素行修ラズ軍人ノ態度ヲ失シ対面ヲ汚ス者アル時ハ前項所定ヲ適用ス
名誉会員ニシテ会則ヲ無視シ若シクハ之ヲ誹謗(ひぼう)スル者アル時ハ本会ハ決議ノ上其名籍ヲ削除シ待遇ヲ謝断ス
第3章 役員
第11条 本会ニ左ノ役員ヲ置ク
  会長 1名  本会ヲ代表シ会務ヲ総理ス
  副会長1名  会長ヲ補佐シ又ハ代理ス
  評議員拾名  会長ノ旨ヲ承ケ会務ヲ評議ス
  書記 2名  会長ノ旨ヲ承ケ庶務会計ニ従事ス
第12条 本会役員ハ会員中ヨリ之ヲ互選ス
  但任期ハ各1ヵ年トシ満期再選スル事ヲ得
第4章 開会
第13条 本会ハ毎年1月4日(新年宴会)及簡閲点呼会状受領期日ヲ以テ総会ヲ開ク
但会長ハ総会ニ於テ諸般事項ヲ報告ス
第14条 必要ニ応シ会長ハ評議員会又ハ臨時総会ヲ開ク事ヲ得
第15条 本会ハ総会ニ於テ会長勅諭奉読式ヲ行フ
第16条 本会ハ学術練習ノ目的ヲ以テ便宜開会シ軍事学ノ研究ヲナシ又ハ陸軍将校ノ来臨ヲ仰キ軍事上ノ講話ヲ求ムル事アルベシ
但訓練監督ハ会員中高級古参ノ者ヲ以テ之ニ充ツ
第17条 会員ハ総会毎ニ出席スル義務ヲ有ス其出席シ能ハザル場合ニ在テハ開会前評議員ニ届出ベシ
第18条 本会々場ヲ当分七郷村役場内ニ置ク
但臨時変更スル時ハ開会前会長ヨリ之ヲ通報スルモノトス
第19条 本会々議ハ出席員過半数以上ノ同意ニ依リ決定スルモノトス
第5章 会計
第20条 会員ハ会費トシテ1ヶ月分ヲ拠出スルモノトス
但1カ年半年若シクハ数月分ヲ1時前納スルモ妨ナシ
第21条 本会ノ経費ハ醵金(きょきん)及寄付金ヲ以テ之ニ充ツ
但臨時費ニシテ醵金寄付金中不足ヲ生スル時ハ評議員会ノ決議ヲ以テ臨時募集補充スル事アルベシ
但定額ハ別ニ之ヲ定ム
第22条 醵金及寄付金ハ成ル可ク蓄積シ定額ニ達シタル時ハ演武ノ具【武芸の用具】ヲ購入スベシ
但定額ハ別ニ之ヲ定ム
第23条 本会ノ趣旨ヲ賛同シ金品ヲ寄附スル者アル時ハ本会ノ名義ヲ以テ謝状ヲ呈シ其氏名並ニ金額品数ヲ簿所【帳簿】ニ録シ篤志ヲ表謝ス
第24条 会計ハ会長之ヲ監督シ其出納ヲ明ニシ毎年第1期総会ニ於テ決算ノ報告ヲナサシム
第6章 雑則
第25条 本会々員及兵役義務者ノ召集ニ関シテハ応召員ニ対シ本会ハ可及的ノ便宜ヲ与フ
第26条 年々新入営者ヲ本会ニ招待し供ニ談話ヲ交換シ■■軍隊ノ情況ヲ識ラシムルモノトス
第27条 軍務奨励ノ為メ会長ハ本会ヲ代表シ本村出身現役兵ニ対シ時々慰問状ヲ発送スルモノトス
第28条 本村軍人中軍務ノ為メ負傷戦死又ハ病死スル者アル時ハ若干ノ弔慰金(ちょういきん)ヲ寄贈シ同情ヲ表スモノトス
第29条 本村新入営者若シクハ軍隊帰郷者アルトキハ会員ハ其都度熊谷及松山ニ之ヲ送迎スルモノトス
第30条 本会ハ会標トシテ章旗二旒(りゅう)ヲ制定ス
但入営退営者送迎ノ際ハ之ヲ携行スルモノトス
第31条 会員中不慮ノ災厄ニ罹リ困難ノ状アル者アルカ又ハ入営中家事ノ担当者ナク其事業ヲ継続シ能サモノハ若干ノ金品ヲ贈リ若シクハ特別ノ方法ニ依リ慰撫(いぶ)哀悼ノ意ヲ表シ若クハ補助スルモノトス
第32条 会員会友中死亡者アル時ハ本会々員中臨時委員ヲ選ミ会葬スル者トス
第33条 会員会友中異動アル時ハ其大字評議員ハ直ニ之ヲ会長ニ申告ス可シ
第34条 他郷軍人団体ト交意ヲ厚クスル為メ毎年々賀状ヲ発スルモノトス
第35条 本会則ハ総会ノ決議ニ依ルニ非レハ変更改正スルコトヲ得ス

久保寅太郎家文書No.253
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