第6巻【近世・近代・現代編】- 第8章:女性の活動
国立女性教育会館 (NWEC)
婦人のページ
性役割の流動化をめざして ——女性学講座より——
国立婦人教育会館事業課 専門職員 上村千賀子
国立婦人教育会館では、調査研究事業の一つとして女性学講座を開催し、今年で6年目を迎えました。講座のねらいは、女性や女性の生活についていろいろな学問分野から女性の視点で研究し、女性が主体的に学習するために必要な情報を提供することにあります。
昭和58年(1983)度から60年(1985)度の3年間は「性役割の固定化・流動化」をメイン・テーマとし、各年には、「見直しからの出発」「性役割の形成と教育」「性役割の流動化をめざして——実践と展望」をサブ・テーマとして焦点的に考察しました。性役割とは
テーマとしてとりあげた「性役割」とは、男・女という性の違いに応じて期待される一連の役割をさします。その「固定化」とは、性が違えば特性も違う、男と女はそれぞれ役割が異なる、だから違った生き方をするのは当然だとする方向です。
「流動化」とは、性の違いが役割を決めるのではない、これまでの男の役割、女の役割とされてきたものも変わってきているし、変わっていくということです。性役割固定化はなぜ問題か
第一に女性の就労の増加等により女性の生活基盤が変化しているにもかかわらず、女性の生き方に枠をあたえ、その能力開花の機会を制約する。第二に、女性だけでなく、男性にも働き人間として偏った生き方を強いる。第三に、暮らしの基本的な問題にかかわる企画・立案の段階への女性の参加を妨げる。第四に、こうしてつくられた「男性中心社会」はさまざまな矛盾や限界を生み出すからです。
性役割の変化と現状
女性学講座を通して次のことが明らかにされました。
一、女性の役割(母親・主婦役割)の中身が変化し、新たな問題が生じていること—「お産の戦後史」や「台所空間の変遷と主婦像」の研究によれば、戦後40年の間に、自宅分娩から施設分娩が多くなるなど、医療技術に身を任せているうちに、女性のお産への主体的なかかわりが希薄になり、親子関係や家族のあり方をも変えてきました。
戦後の台所革命は封建制をつき崩し、台所空間は住居の核となり、更に、昭和30年代の高度成長期には家事の合理化が進み、主婦は多くの余暇時間を手にいれました。
しかし、この変化は女性の主体的な働きかけによるよりも、むしろ、社会、経済の発展の結果であり、時代の流れに身を任せているうちに生活領域が広がっていたというものです。
二、性役割の流動化の兆しがみられるが限界があること——例えば、社会参加の一つとして女性の間で普及しているスポーツについて、競争主義に陥ったママさんスポーツは経済的には夫に依存し、精神的にも自立を欠いており、スポーツを地域や生活に根ざしたものとして積極的にとらえかえす必要があると指摘されました。
また、働く母親が増えたが、その多くはパートなど不安定な立場にあること、男性の職業分野への門戸が開放されたが、女性側に職業意識が確立されていないことがあげられます。
三、性役割の固定化と再生産が生活のあらゆる場面でみられること——子どもの性役割形成に大きな影響力をもつのは家族、とりわけ母親です。母親の選ぶ絵本の大切さもあげられます。活発で冒険的な男の子、無口で従順な女の子、絵本は視覚に訴え、くりかえし読まれるので性役割意識の形成に深くかかわっているのです。また、学校教育における男女の性による特性教育、新聞、雑誌、テレビ等マスメディアから流される固定的な役割モデルがとりあげられました。性役割流動化をめざしたさまざまな実践例
生活と結びついた、男女が共に学ぶに値する新しい家庭科を創りだすことをめざした出版活動。女性センターづくりに女性の意見を積極的にとり入れている行政の取り組み。小・中・高校における男女平等教育や大学における女性学講座、男性の家事、育児への参加の実践例が発表されました。
『嵐山町広報』339号「婦人のページ」 1986年(昭和61)2月20日
家事・育児を妻と分担し、職場、家庭、地域の活動を日常の暮らしの中で結びつけて生きてきた男性ジャーナリストはその発表の中で、〝家庭〟があって〝家事の分担〟があるのではなく〝個々の生〟があって〝家事の共同〟があるはずであり、より人間らしい暮らしとは何かを明らかにしたいなら、〝女・子どもの視点〟に立とうと努力することだ、と述べています。
女性学講座で共通に理解された「性役割の流動化」の方向とは、単に女性の自立や婦人問題を解決することにとどまらず、男も女も自立し、個人の意志と能力に応じた生き方を選択できるということです。
—おわり—