第6巻【近世・近代・現代編】- 第7章:文芸・学術・スポーツ
嵐山町の俳人達
俳号 鍜水 香山 至考 光盛 馴太郎 香天亭 近月 五汀
青柳軒 藤の家 吾雀 青月 溪屋
鍜水
下戸の名を捨て戻るや花の山
子に七分親は三分の日傘哉
人手にはあとも掃けぬ桜木哉
蒸(フカス)子の野(イナカビ)て居るや臼の米
夜桜や生酔一人恋の罠
香山
春雨や糸に撃ぎし客の足
梅程は筆の揃わぬ在所かな
翌(?)日(?)ありと思ふ油断やそ(?)で(?)の雨
至考
鍋よりも口にふせたしふぐの友
菊の香や古哲(フルキサトリ)を子の几(ツクエ)
光盛
月の海見渡す果のなかりけり
男子生れて■誉と■ めし
石山や月は昔のものながら
用も無き人呼込や春の月
梅咲くや柱暦の重ね張
元日や雀も竹に千代の声
鴬の声に疲れけり雪達麻
欄木の影また凄し冬の月
馴太郎
立聞の罪つもりけり傘の雪
親らしき摺(ヒダ)の匂ひや二かの月
香天亭
男気も物にこそよも鰒(フグ)に箸
近月
竹さらりさらり凉しき小窓哉
呼べと子は空吹く風よ紙鳶(カミトンビ)
青柳軒
貫一ツ貞婦の帯を解せけり
五汀
寝にあがる二階も庵の月夜かな
藤の家
春風やかくし山葵に眼のしぐれ
吾雀
春風や醤油の匂ふ焼団子
青月 日高市かも
凉しさや川見おろしてよい坐敷
此の沢の世はうつくしや花に人
渓屋 【現・日高市の平沢かも?】
朝が日に起読ふりや明からす
俳号 其水 たぬき 三之 高橋
其水 杉田啓次郎 杉の本
踊り子や飛出しさうな蝶の髷
二た筋の道に迷ひし花野かな
親の咳苦にして懸る布団哉
袴着や流石家から育から
乗合を帰らして渡す角力かな
藻の花や亀に引れて丘揚
末永く結ぶ願や常陸帯
一生は只短夜のゆめ間哉
たぬき
脚半とく無事をえりと時雨哉
一かいの富は保たず散る桜
三之
持参金よりも頼もし壻の胼(タコ)
高橋
親の親あつて睦まし桃の宿
俳号 紫山
紫山
気にせずに居られぬ秋の日和かな
俳号 国風 キ丸 山子 霖風
国風
兵書練る栄蝶灯や啼鳳
キ丸
手のとどく枝も無事也神の梅
山子
城附の十百万石霞けり
霖風
凉しさや海しらなみに昇る月
俳号 大器 週月 五風 雪道 平正 平井 竹月 蚊風 観桎 清
江月 進遊 寿月 石山
大器 大沢国十郎 沢大器 漢学者
貫だしたやうな季藤の朝雫
灯篭や恋と無定のうら表
鷹化して鳩やさりとは身の辷り
週月
春もまた寒き味なりとろゝ汁
枕にも重たし旅の雪二日
帯を解く艸木に霜の別れ哉
砂埃り踠立て来たり夏の雨
綻びぬ義の一言や桃の酒
太平は君の武徳や御代の春
心願を疂む日傘や神の前
万石の垣口にさくや杜若
竹描く筆のはしりや郭公
五風
雨風のうきとも厭はずむ注(夢中)の子
鶴の舞ふ亀井の里や初日の出
葷酒さへ許さぬ山や女郎花
花なきは分入り次きに月の雲
手を拱いていさ聞む霜の音
誉らるるはづみにそれし手鞠哉
雪道
しむしむと咳近し霜の声
春雨や皆根の生ず遊び連
手造の草鞋も見へて冬籠
蕣(アサガホ)や蔓ほどながきはな盛り
平正
花やかな衣裳揃ふや伊勢踊
山越えて一と息つきし清水かな
鴬の老ても声の若粳(オクテ)かな
真黒に見えて降けり沖島
かい(へ)さぬきいていなしされど今朝の雪
屈(カガ)みたる処には居らずきりぎりす
手に行を握る将基の助言哉
雨凌(シノク)く工夫のかたき巣鳥かな
何そ富羨まず此庵の月
平井
朝■に子も早起を習ひけり
竹月
胼の手に有(?)や不(?)咎(?)のゆつり状
蚊風
花に念入てなしか遅さくら
観桎
咲菊に時めかしけり賎の庭
清
懸乞の乗てもどるや口車
江月
入営の餞にさけり菊の花
進遊
存才に居る気はなくも暑かな
寿月
又一ツほめへらさるる瓢かな
花足袋の咄しやこちて足して聞く
石山
寝こころや蛙啼く夜の雨催ひ
誰の嘱に鳴海絞りの浴衣かな
落葉や拾ひ日和の鼻の先
頓(ヤガ)てすく田とおもわれず蓮花艸
野仏の前や後や蓮花艸
ちるかたへ出ず雪洞や夜の花
葉さくらや子は持ちながら能い妹
幾千とせ汲とも汲とも清水かな
旅笠や同行四人五月雨(サミダ)るる