第6巻【近世・近代・現代編】- 第7章:文芸・学術・スポーツ
武蔵俳諧百人集
斯の道に遊ひて斯の道の友を知らさるををしむ、ましてやおのか国の友を知らさるをや、こゝに社中むさしの国比企の郡八和田の里の文令舎可及子はこの事を深くおもんはかりて己か国の諸風子の玉詠をあつめ彼の小倉山百人一首に倣(なら)うておのおの肖像を加へ武蔵俳諧百人集と号(なづ)くる一小冊となしてこのみちに遊ふ友とちに頒(わか)ち居なからにして交りを結ふのたねになさんと近友夢の家蝶遊伏亀軒竹窓両子にはかりしによしくとあひ担うてをちこちの雅友に披露せしに束の間に一百有余名にいたりしとてその稿を携ひ来りて予に序を需(もとめ)ることせちなるに任せて披き見るにおのおの得意の玉吟をそのまゝのせたれは作者のこゝろあらはにして興味ふかくまた肖像を見てはその友に逢ふたるこゝちして実にともを知るのこよなきよき冊子なりとほめそやせしまゝをしるして此ノ集の序とはなしぬ
大正六丁巳季春
明倫教会長
中教正 柴崎如哉㊞
号 金令舎
東京 明倫社長 柴崎 勇
一日も伸ぬひはなき柳かな 畊(耕)哉
号 青白堂
入間郡大家村多和目 関口曽木
六ツの花*1あけほの早きにほひかな 七十五老 曽木
*1:六ツの花…雪のこと
号 蝶園
大里郡大寄村矢島 茂木信次郎
囃さるゝ口に舞こむ薺哉 秋香
号 六気庵
入間郡越生町上野 吉田秀三
女木男木の分けしら梅は咲にけり 素竹
号 一普菴
入間郡東吾野村井上 井上無物
うくひすの音や足曳の*2山かつら 七十四齢 無物
*2:足曳の…山にかかる枕詞
熊谷本町三丁目 中沢半七氏
鳥影や花にこゝろのうつる時 正覚
号 文秀斎
比企郡七郷村広野 井上万吉
八束穂*3や模範作りの旗かしら 春昌老人
*3:八束穂(やつかほ)…八握りもある稲の穂。また、長い穂。
号 健須居
入間郡梅園村上谷 武内久作
蝶鳥ハ何をこゝろそ神無月 久雄暇人
号 拾硯斎
比企宮前村月輪 大塚ъb八
右は富峰左は筑波根よ八重霞 賢
号 七世咫尺斎
入間郡東吾野村長沢 栗原篤太郎
清くし蚤も蚊もいぬ坊泊り 寥和
号 方水菴
大里郡本郷村針ヶ谷 山崎富次郎
しら梅や屋根替すみし古社 顕海
号 可心菴
比企郡宮前村中尾 横田長平
柳髪写す野守の鏡かな 如柳
号 焦竹居
入間郡東吾野村 加藤島三郎
雲をまくらゆきを褥や不尽*4眠る 藤水
*4:不尽…富士山
臨川堂
大里郡武川村上原 塚越兼之助
樽たゝけ寝た子もおきよ盆の月 里軒
号 燕子居
比企郡松山町東平 田中力造
燕や東平に二代の巣 一心
号 独唱庵
比企郡松山町 柳﨑良貞
昨日雲今日は吹雪の桜かな 童山
号 玉川堂
比企郡玉川村 田中友治
雨なれは後てなかめむ今日の月 村洲
号 夜楽庵
比企郡明覚村大附 島田浅三
うくひすや洗ふたやうな耳の底
号 俵雪庵
比企郡七郷村古里 安藤金蔵
司召家庭のおしいかほりけり 古洲
*5:司召(つかさめし)…官吏を任命すること。
号 磊亭
大里郡藤沢村上野台 酒井権八
松島や月の出潮のほとゝぎす 理川
*6:出潮(でしお)…月の出とともに満ちてくる潮。
号 よしみや
比企郡松山町 黒沢幾太郎
たのしさや今日の花見も月の友 幾帆
号 春眠舎
比企郡高坂村岩殿 関口嘉暢
蝿に逃蚊に逃蚤に喰れけり 化蝶
号 語石庵
比企郡西平の里 岩田福次郎
何のその秩父颪も彼岸かな 祥風
号 夜春庵
入間郡越生町 柿沼良七
鶯は耳順を越てほとゝきす 柿本
号 緑水亭
比企郡菅谷村遠山 久留田半次郎
丹精を山ほと積むや今年米 三之