第6巻【近世・近代・現代編】- 第6章:くらし
大塚基氏編『ある夏休みのことです』
はじめに
偶然にも、昭和三十年代の半ばの七郷中学校一年生(女生徒)の作文集が見つかり、目を通す機会に恵まれて、忘れかけようとしていた家族の触れ合いについて 考えさせられました。作文の中の子供達は、熊谷市の花火大会ぐらいを楽しみに、家のお手伝いをすることを当たり前の事ととらえて、自分の家族の為に子供の 立場から一生懸命に頑張っていました。家の手伝いの中から親達の苦労や、働くことの喜び、自然とのかかわりあいを体で体験していました。
大塚基氏編『ある夏休みのことです』 1994年(平成6)12月17日
そして、なによりも特記すべきことは、本人にはまったく意識が無かったにしろ、夏は農作業、冬は山林の手入れにと、一生懸命に頑張る農林業の担い手であったことです。
子供達の力が農地を守り、山林を守り、自然を守っていた立て役者だったのです。
しかし今、飽食、物質文明の時代を迎えて、人の価値観も大きく変わってきました。
そして何千年もの間、生活の根をしっかりと緑と清流の中におろしていた農村の人々の中にも大きな変化が表れてきました。今の農村の子供達は家の仕事を通じ て家族で話し合うことが無くなり、目に写るのは、休みが増えてレジャーと子供に御機嫌をとる親の姿と、農地や山林がどんどん荒廃していく姿と、塾通いをする自分達の姿のような気がします。
この作文を読んで、作文の時代を知っているものは一度その時代を振り返って見るのもよいと思います。また、知らない時代の人は、家族とのふれあいの中で、この作文の中の子供達の生活を考えて見て、なにが大事なのか考えて見ることも必要なことと思います。