第6巻【近世・近代・現代編】- 第5章:社会
福祉
武谷敏子
2006年(平成18)7月のある日、らんざん苑を見学に訪れました。
見学を前に小林施設長から概要の説明をお願いしました。
話のなかで開設10周年を迎えるにあたって施設の内外をリニューアルしたとのことで、あらためて周囲を見渡すと床も壁も新築当時のようにイメージアップしています。外壁ももちろんのことで終了まで3ヶ月かかったそうです。
鉄筋コンクリート3階建ての施設は中庭を囲むように回廊になっています。この回廊を利用者が手すりを伝いながら巡ると約72メートルで、歩行訓練には格好の場所です。
2階、3階は長期入所者とショートステイ利用者の居室があります。個室14室、4人部屋9室は回廊にそって並んでいます。ガラス越しに見える豊かな自然はなだらかな起伏を描いて広がっています。
施設長に食堂へ案内してもらいました。正午前でしたが、食事に時間がかかるということで殆どの入居者がテーブルについていました。すでに食事が終わった人、一生懸命スプーンを口に運んでいる人、食膳を前にして眠っているのか俯いて目をつぶっている人など、さまざまですが話し声はなく、厨房を出入りする職員の声と食器の音だけが聞こえます。
その中で101歳という最高齢者の女性が元気な声で挨拶を返してくれました。
男性の最高齢者は98歳です。ちなみに入居者の平均年齢は85.3歳です。
現在、らんざん苑の入所を待つ人(待機中)は100人です。町民が優先ですが、順位は状況判断で5年から10年待たなければなりません。老々介護も珍しくない昨今、家族も健康を気にしながら順番がくるのをひたすら待つしかないわけです。入居申し込みは他の施設など複数が可能なので、入居したり、万が一亡くなったりした場合は必ず連絡してほしいとのことでした。
1階はデイサービスのフロアーです。朝9時、迎えの車の出発からデイサービスが始まります。この日の利用者は20人(定員30名)でしたが、10時半からの入浴に備えて体調のチェックをしたり、すでに入浴を終えた人の髪にドライヤーをあてたりと、スタッフは大忙しの様子です。
デイサービスの広間はベッドや和室もあっていつでも横になれるようになっています。壁には利用者の作品が飾ってあります。おりがみで折ったあじさいが咲いていたり、習字の時間に書いた書は高齢者とは思えない出来ばえです。
デイサービスは四季を通して行事が多く、お花見やショッピング、外食、お誕生会など多彩です。7月の納涼祭も迫っています。納涼祭は毎年ボランティアも参加して綿菓子や焼きそばなどお店が賑やかにならびます。
特別養護老人ホームは福祉事業とは言うものの、どのフロアーにも笑顔のスタッフがいます。施設長に職員について尋ねました。
施設長以下総勢57名の職員がいます。介護職員23名、看護師8名とケアマネジャー7名が、特養やデイサービス、在宅介護にあたっています。
「福祉大学や専門学校を卒業してこの職業を選んだわけで、好きなんですよ、この仕事が。」と施設長がスタッフの笑顔について立証してくれました。
らんざん苑は開設当初から利用者の家族として何度も訪れていますが、今回、見学が目的とはいいながら、あらためて客観的な視点で苑内をみると、入居者の家族の切実な思いが伝わってきます。
老人福祉に関する制度や法律が改正されて、利用者にとってきびしい状況になっています。
ともあれ設備の整った施設が利用者にとって、どこまでも居心地のいい場所であってほしいと願いながら、らんざん苑の見学を終えました。