第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章:地誌
比企郡堂庵明細帳
埼玉縣管下武蔵国比企郡越畑村(おっぱたむら)字大堂
同縣同国同郡同村曹洞宗宝薬寺(ほうやくじ)持
曹洞宗通幻派*1○薬師堂(やくしどう)
一、本尊 薬師如来(やくしにょらい)
一、由緒
當本尊ハ行基*2ノ作ニシテ人皇*3四十七代*4聖武帝(しょうむてい)ノ御宇*5帝護國家(みかどこっかをまもり)村内安全(そんないあんぜん)ノ為メ創(はじ)メテ村ノ西北ニ方(あた)リテ一宇*6ヲ建立ス。故ニ今其所ヲ堂ノ入リト称シ其後天平(てんぴょう)八年(736)今ノ大堂ニ移し、軍民挙テ恭敬(きょうけい)ヲ尽(つく)スニ霊験(れいけん)一時ニ著(いちじる)シク今ニ至テ絶ヘズト。此説審(つまびら)カナラズト雖(い)ヘトモ数十年耒人口ニ膾炙*7スル所ヲ記スノミ。
昭和十七年(1942)三月三十一日比企郡七郷村大字越畑曹洞宗寶薬寺(ほうやくじ)ヘ所属認可*1:曹洞宗通幻派(そうとうしゅう つうげんは)…曹洞宗は鎌倉時代に道元によって開かれた仏教の宗派。通幻派は南北朝時代に活躍した通幻禅師の流れを汲んだ人びと。通幻禅師は主に越前・能登・丹波で活躍し、通幻派は曹洞宗のなかで大きな勢力になり、通幻の建てた福井県の龍泉寺は通幻派の本山になっている。
*2:行基(ぎょうき)…奈良時代の名僧。布教しながら諸国を回り、道路、橋、用水施設を建設した。
*3:人皇(にんのう)…じんこう。建国神話で神代(じんだい)の天神七代、地神五代に対して、神武天皇以後の天皇をいう。
*4:皇統では四十五代が正しい。
*5:御宇(ぎょう)…天皇の治める時代。
*6:宇(う)…建物などを数えるのに使う助数詞。
*7:膾炙(かいしゃ)…知れ渡る。一、本堂 間口五間
奥行六間一、境内 百七十七坪 官有地第四種(一三七坪トアリ)
一、信徒 八拾八人
一、管轄廰(かんかつちょう)迄 拾四里
「昭和38年度文書 埼玉県学事課 比企郡堂庵明細帳」
以上