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第6巻【近世・近代・現代編】- 第9章:戦争

第2節:戦争の記録

戦時下の馬内部落会生活刷新申合規約

大政翼賛会のもとで

 日本は、1931年に満州事変、1937年に日中戦争へと突入して中国全土に侵略戦争を拡大していったが、ヨーロッパでは1939年にドイツがポーランドに侵入して第二次世界大戦が始まった。日本政府はこの戦争には介入しないと声明を出したが、日本の始めた日中戦争は泥沼化して、国民生活は窮乏し、米・木炭・マッチさえも不足する状況であった。日本は日中戦争の打開のために資源の豊な米英仏蘭の植民地のある東南アジア進出をめざすようになった。1940年に入ってドイツ軍がヨーロッパ各地を征服すると、日本は外交方針を変更して日独伊三国同盟を締結し、やがてアメリカと対立を深めるようになった。
 こうした状況のなかで、国内的には新体制運動が提唱され、10月に大政翼賛会が発足した。この会は近衛首相を総裁に、各県知事が地方支部長をつとめ、郡市町村に各支部が置かれ、支部の事実上の末端組織は町内会・部落会であった。大日本産業報国会・大日本婦人会なども傘下におさめた。他方それまでの既成政党はすべて解散になっていて、一元的な戦争指導体制のもとで国民を總動員する態勢がつくり上げられていった。
 ここで紹介する「馬内部落会生活刷新申合規約」はこうした新体制運動・大政翼賛会運動の展開される状況のなかで、1941年(昭和16)1月につくられたものである。
 規約は、
 第一章 時間厳守 第二章 結婚 第三章 出産 第四章 葬儀 第五章 法要 第六章 入営 応召 除隊 帰還 第七章 年末年始 第八章 其ノ他
からなりたっている。第一章の時間厳守以外は、地域における社会儀礼にかかわることすべてにわたって徹底して簡素に行なうべきことを規定している。戦時体制下の統制された厳しい国民生活の実態を知る手がかりになる貴重な資料として全文を収録した。

【七郷村大字古里】馬内部落会生活刷新申合規約

   第一章 時間尊重
第1条 各自時報(サイレン・ラジオ)ニヨリ時計ヲ常ニ正確ニスルコト
第2条 公会ハ勿論一般会合ニハ指定時間ヲ確守シ他人ニ迷惑ヲ掛ケザルコト
第3条 総テ会合ニハ集会ノ種別及開会ノ予定時間ヲ通知スルコト
第4条 各自ハ指定時間前十分乃至五分ノ余有ヲ見計ヒ出発ヲ心掛ルコト
第5条 司会者ハ遅刻者ノ有無ニ拘ハラズ指定時間ニ開会シ閉会ノ定メアル時ハ之ヲ厳守スルコト
第6条 遅刻欠席ノ場合ハ其ノ理由如何ニ係ラズ開会前司会者ニ口頭又ハ文書ヲ以テ届出ヅルコト
   第二章 結婚
第7条 見合ハ質実簡素ヲ旨トシ高価ナル服装饗応(きょうおう)ハ絶対ニ為サズ御茶菓子程度タルコト
第8条 結納ハ儀礼ノ程度ニ止ムルコト 即チ袴帯小袖等ヲ廃シ料金トシテ百円以内トシ昆布鰹節塩物(しおもの)友白髪(ともしらが)末広(すえひろ)慰斗(のし)等ノ内一種又ハ数種ヲ取合セ贈ルコト
第9条 衣服調度品ハ双方合意ノ上簡素ニシテ新調ヲ見合セ箪笥一棹夜具一組以下トシ其他止ヲ得ザル場合ハ実用品ヲ旨トスルコト余裕アル者ハ貯金通帳国債証書ヲ持参セシムルコト
第10条 式服ハ新調ヲ見合セ新郎ハ可成国民服又ハ団服トナシ新婦ハ留袖以下トシ振袖胸模様ハ絶対ニ廃止シ着替色直シ(いろなおし)【結婚の披露宴で新婦が式服を別の衣服に着替えること】等ハ為サザルコト
第11条 挙式ハ神聖厳粛ニ行ヒ左ノ規定ニ依ルコト
1 国家【国歌】奉唱 2 宮城遥拝 3 祖先ノ霊ニ夫婦ノ宣誓ヲ為サシム 4 一同拍手(手〆)ヲ行フ 5 媒酌人又ハ親ヨリ答辞ヲ述ブ 但シ宣誓文ハ適宜選文ス
第12条 披露宴ハ近親者特別縁故者隣組班トシ隣組班ノ御祝儀ハ金五拾銭トス
第13条 饗応ハ其ノ席ニテ喫食シ得ラルル程度トシ酒ハ一人当リ二合以内トス 引物御祝儀御返シ等一切行ハズ衣服調度品ノ披露ハ絶対ナサザルコト
第14条 婿嫁ノ披露ハ其ノ隣保班ニ限リ他ハ婦人会部落等ニ於テ便宜紹介スルコト
第15条  迎ヒ一元客ハ廃止シ膝直シ【嫁のはじめての里帰り、またその日に新郎が新婦側の人たちと杯を交わす宴】等ノ土産物ハ為サザルコト
   第三章 出産
第16条 出産祝誕生祝節句帯解(おびとき)孫ノ祝等ハ精神ヲ主トシ親族以外ノ御祝ハ長男長女限リトシ羽子板弓濱(ゆみはま)鯉幟(こいのぼり)雛人形等ノ物品贈物ハ廃止シ御祝金五拾銭以下トシ隣保班ニテ取纏メ贈ルコト
第17条 御宮参帯解等ニテ晴着ヲ新調セザルコト
第18条 種痘(しゅとう)見舞等全廃シ一切ノ配リ物ヲ廃スルコト
   第四章 葬儀
第19条 死亡通知ハ近親者及故人ト親交厚キ者タルコト
第20条 隣保班ハ葬儀ノ時刻ヲ部落会長ニ通告シ会長ハ部内ニ急報シ必ズ一戸一名以上会葬セシムルコト 但シ学齢未満者ハ之ヲ略ス
第21条 喪服ハ団服若シクハ国民服又ハ禮ヲ失セザル服装タルコト
第22条 出棺時刻ヲ厳守シ日暮レニ迫ラザル様心掛クベキコト
第23条 撒銭與銭等ハ廃止スルコト
第24条 食事ハ立働人以外ニ出サザルコト 但シ親戚特別縁故者ニハ簡素ナル食事ヲ出スモ差支ナシ
第25条 香典ハ親族及特別縁故者以外ハ廃止スルコト
隣保班ニ於テハ米壱升ヲ以テ香典ニ代フルコト
第26条 香典返シ及弔問者ニ対シ礼状ヲ廃止スルコト
第27条 供物花輪生花弔旗ノ贈答ハ全廃スルコト 但シ場合ニ依リ花壱対ヲ贈クルコトヲ得
第28条 忌中ハ簡素ヲ旨トシ親族隣組範囲ニ止メ酒ヲ全廃シ料理ハ凡テ其ノ席ニ於テ喫食シ得ラルル程度トシ引物等ヲ全廃スルコト
   第五章 法要
第29条 法要(一周年忌、三周年忌)ニ於ケル参列者ハ親族特別縁故者隣保班ニテ小範囲トシ饗応ハ第28条ニ準ズルコト
第30条 香典ハ第25条ニ準ズルコト
第31条 一七日(初七日)四十九日命日彼岸于蘭盆(盂蘭盆)等ノ墓参ハ祖先崇拝ノ美風ナルガ為メ之ガ励行ニ努ムルモ親族縁故者以外ハ金品ノ授受ヲ行ハザルコト
   第六章 入営 応召 除隊 帰還
第32条 祝宴ハ簡素ヲ旨トシ近親者及隣保班特別関係者トナシ出発前鎮守社頭ニ挙式ヲ行ヒ部落会員ハ一戸一名以上各種団体員合同ニ参列スルコト
第33条 鎮守社頭ノ祝酒ハ壱升トシ字内持チタルコト
第34条 入隊応召ニ於ケル祝宴ハ可成出発前時トシ酒一人当リ一合引物等為サザルコト
第35条 祝旗ハ国旗一本トシ歓送迎ニハ可成手旗一本ヲ持参シ所定ノ場所マデ行動スルコト
第36条 入営応召ノ際襷ヲ廃止シ胸部ニ日ノ丸記章ヲ付スコト
第37条 除隊帰還ニ付イテ手土産記念品等ヲ廃止スルコト
   第七章 年末年始
第38条 四方拝ハ小学校ニ於テ拝賀式ヲ行フ者ノ外各鎮守ノ社頭ニ於テ年賀ノ挨拶ヲナスコト
第39条 年賀回禮ハ廃止(当分ノ内)スルコト 但シ新婚当時三ヶ年位ハ此ノ限リニ非ラズ
第40条 門松ハ芯松ヲ廃シ枝松(三尺以内)トシ棚木等モ新調セヌコト
第41条 中元歳暮贈答及手土産等形式的ナモノハ全廃スルコト
第42条 吉凶等ノ贈物ハ部落会議或ハ隣保ニ於テ統括シテ贈ルコト
第43条 神参旅行湯治等ノ留守見舞及餞別贈答手土産贈答ヲ廃止スルコト
第44条 上棟祝負普【普請】請見舞等廃止シ上棟祝等飲食ヲ簡素ニシ棟梁送リハ廃止スルコト
第45条 神社祭典縁日日待等ノ飲食物ノ贈答ハ全廃スルコト
第46条 病気見舞ハ慰安ヲ旨トシ形式的ノ飲食物ノ饗応ヲ止メルコト
   第八章 其ノ他
第47条 毎朝洗面後神社ニ禮拝スルコト
第48条 祝祭日ノ国旗掲揚ヲ励行スルコト
第49条 一切ノ酒宴ニ於ケル酒ハ一人当リ二合以下トシ盃ノ献収【献酬 杯をやりとりすること】ヲ行ハザルコト
第50条 吾ガ家ノ日記ヲ記載スルコト
第51条 各章中実行ニ入ル当事者ハ部落会長ノ意見ヲ承リ執行スルコト
第52条 部落会長班長ノ訂正ヲ求メラレタル時ハ其ノ指示ニ従フモノトス
第53条 部落会長ハ挙式其ノ他実行ニ関シ遠慮ナキ指導ヲ行フコト
   附記
1 当分ノ内 祝事ニテモ半紙ヲ付ケルコトヲ中止スルコト
2 当分ノ内 夜番ノ夜食米ヲ止ムルコト
3 生活改善実行ノ上、祝儀葬儀、出兵、帰還、長男長女御誕生ニ於テ部落会ノ基本財産デ応分ノ寄付金ヲ為スコト
4 本規約ヲ実行スル事ニ於テ承諾印ヲ取リ置コト
  昭和十六年一月
   毎月部落定会ハ七月ノコト(午後一時ヨリ三時)
   但シ五、六月ハ止ムルコトアリ

古里二区(馬内公会堂)区有文書No.15
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