嵐山町web博物誌

第6巻【近世・近代・現代編】- 第1章：地誌

第3節：武蔵国郡村誌

武蔵国比企郡村誌　巻之七

○吉田村*1

本村古時伊古郷水房庄松山領に属す

疆域*2

東は滑川を隔(へだ)てゝ和泉広野両村と相対し西は越畑村南は勝田村と山巒*3或は樵径*4を限り北は土塩村古里村男衾郡西古里村と小径*5及ひ耕地を接す

幅員*6

東西十九町二十間南北二十三町二十間

*1：吉田村(よしだむら)…現・埼玉県比企郡嵐山町吉田。
*2：疆域(きょういき)…境界内の土地。
*3：山巒(さんらん)…山つづき。
*4：樵径(しょうけい)…きこりが通う山道。
*5：小径(しょうけい)…こみち。
*6：幅員(ふくいん)…ひろさ。はば。

管轄沿革

天正十八年(1590)庚寅(かのえとら)徳川氏の有に帰し後村高を割(さ)き旗下士折井市左衛門山本四郎兵衛曾我又左衛門松下清九郎の采地*1とす　風土記高三百六十三石五斗八升折井右宗二百石山本四郎兵衛十九石曾我又左衛門八十石六斗六升九合松下清九郎知行と載す　曾我氏の采地は其後菅沼氏に替(かわ)り四氏世襲す明治元年(1868)戊辰(つちのえたつ)折井氏四百石山本氏二百石松下氏八十石六斗六升九合菅沼氏十九石八升二合明治元年戊辰(つちのえたつ)武蔵知県事の管轄となり、二年(1869)己巳(つちのとみ)二月品川県に隷(れい)し八月韮山(にらやま)県に転(てん)し、四年(1871)辛未(かのとひつじ)十一月入間県に属し、六年(1873)癸酉(みずのととり)熊谷県の所轄(しょかつ)となる

里程*2

熊谷県庁より西方三里八町
四隣和泉村へ二十町 勝田村へ十六町 越畑村へ十五町古里村へ十五町 土塩村へ十五町 小江川村へ三十町
近傍(きんぼう)宿町松山町へ三里中山道熊谷駅へ三里八町　字前谷を元標*3とす

*1：采地(さいち)…領地。知行所。
*2：里程(りてい)…みちのり。里数。
*3：元標(げんぴょう)…計測などの基準となる目印。

地勢

山巒連亙*1起伏し東に市の川を帯(お)ひ東北に少し平地あるのみ運輸不便薪は余あれとも炭は乏(とぼ)し

地味*2

色赤或黄埴*3を交(まじ)ゆ稲梁*4に適し麦桑*5に応(おう)せす水利不便時々旱*6に苦しむ

税地

田　　四十五町四反二十四歩
畑　　四十町四反九畝六歩
宅地　一町六反二畝二十九歩
大繩場*7　二十四町九反六畝四歩
総計　百十二町四反九畝三歩

*1：山巒連亙(さんらんれんこう)…山が連なって続いていること。
*2：地味(ちみ)…土地が肥えているか、いないかの状態。土地の生産力の程度。
*3：黄埴(こうしょく)…黄色いねばつち。
*4：稲梁(とうりょう)…稲と粟(あわ)。
*5：麦桑(ばくそう)…麦と桑(くわ)。
*6：旱(かん)…日照り。
*7：大繩場(おおなわば)…新田開発後正規の検地をうけて新田年貢を課されるようになるまでの期間定率の見込年貢を徴される田畑。見取場。

字地

長竹(ながたけ)　村の西隅にあり東西七町南北八町三十間
沼下(ぬました)　長竹の東に連る東西五町二十間南北九町二十間
前谷(まえやつ)　沼下の東南に連る東西九町三十間南北十六町二十間
下(しも)　前谷の東に連る東西三町四十間南北十町三十間
上(かみ)　下の西北に連る東西八町五十五間南北六町三十間

貢租

地租　金千三十七円八十一銭三厘
賦金*1　金十円四十九銭六厘
総計　金千四十八円三十銭九厘

*1：賦金(ふきん)…税として割り当てられた金銭。

戸数

本籍　八十四戸 平民
社　　四戸 村社
寺　　一戸 曹洞宗
総計　八十九戸

人口

男　　二百六十四口
女　　二百三十九口
総計　五百三口

牛馬

牡馬(おすうま)　四十二頭

舟車

荷車　一輛　小車

山川

滑川(なめがわ)　深処一丈浅処三尺広処五間狹処二間。緩流濁水。村の北方土塩村より来り東南端勝田村に入る。其間十一町五十間

湖沼

三反田沼(さんたんだぬま)　東西五十間南北百二十間周回百七十間村の西方にあり
五反田沼(ごたんだぬま)　東西百八十間南北三十間周回二百十間村の西方にあり
新沼(しんぬま)　東西百二十間南北四十二間周回百六十二間村の南方にあり

道路

寄居道(よりいみち)　村の東北勝田村界より西方古里村界に至る長三十四町三間巾八尺
道　村の東方和泉村界より西方越畑村界に至る長十三町二十五間巾三尺

神社

峯社　村社々地東西十三間五尺南北十三間五尺面積百二十五坪村の北方にあり祭神不詳祭日陰暦十月十五日
六所社　村社々地東西十三間五尺南北十三間五尺面積百二十九坪村の南方にあり大山祗命*1を祭る祭日十月十五日
手白社　村社々地東西十二間三尺南北十六間一尺面積百五十二坪村の中央にあり手白香姫命*2を祭る祭日十月十五日
五竜社　村社々地東西九間南北十間面積七十四坪村の乾*3の方に在り高龗命*4を祭る祭日十月十五日

仏寺

宗心寺　東西三十一間南北五十一間面積千六百六十五坪村の中央民有地にあり、曹洞宗中尾村慶徳寺の末派なり。文祿三年(1594)元地頭折井市左衛門次忠開基*5僧雲哲を開山*6とす

*1：大山祗命(おおやまづみのみこと)…山の神。
*2：手白香姫命(たしらかひめのみこと)…手の神様。
*3：乾(いぬい)…北西。
*4：高龗命(たかおかみのみこと)…雨乞いの神。高霎神とも書く。
*5：開基(かいき)…寺院の創始者。
*6：開山(かいざん)…寺を開いた僧侶。

役場

事務所　村の北方戸長宅舎を仮用(かよう)す

物産

繭　十石
楮*1　三百四十貫目
生絹*2　百六十疋
薪　五百駄

民業

男は農桑*3を専とし、女は農桑紡織*4を専(もっぱら)とす

*1：楮(こうぞ)…和紙の原料。
*2：生絹(すずし)…生糸の織物。
*3：農桑(のうそう)…農耕と養蚕。
*4：紡織(ぼうしょく)…糸をつむぐことと、布を織ること。

『武蔵国郡村誌　第六巻』「武蔵国比企郡村誌　巻之七」 埼玉県立図書館, 1954年(昭和29)7月31日

手白神社の幟旗